デザインを制作するとき、私がかなり大切にしているのがヒアリングです。

以前の記事でも書きましたが、私は「おしゃれなものを作ること」だけがデザインではないと思っています。

何を表現したいのか。 誰に、どんなイメージを伝えたいのか。

そこを考えて、目に見える形へ落とし込んでいくことがデザインだと思っています。

だからこそ、Illustratorを触り始める前や、Webサイトのレイアウトを考える前に、まず相手の話を聞くことを大切にしています。

デザインの良し悪しは「おしゃれ」だけでは決まらない

有名な例として、Nikeのスウッシュがあります。

1971年、ポートランド州立大学のデザイン学生だったキャロライン・デビッドソンが制作したもので、当時フィル・ナイトも最初から強く気に入っていたわけではなかったそうです。

一方で、このマークには「動き」や「スピード」という考えが込められていました。

その後、Nikeという企業の成長とともにスウッシュも浸透し、今では世界的に知られるシンボルになっています。

この話を見ても、デザインは単純に「見た瞬間におしゃれかどうか」だけで評価できるものではないと感じます。

何を表現するためのデザインなのか。

私はそこを考えることの方が大切だと思っています。

そして、それをデザイナー側だけで考えていても、本当の答えにはなかなかたどり着けません。

そこで必要になるのがヒアリングです。

営業でも、ヒアリングは自分の課題だった

私は営業マンとして約10年仕事をしてきました。

営業でも、ヒアリングはとても重要なスキルだと思っています。

ただ、これは私自身、課題に感じてきた部分でもあります。

営業というと、

「自分の商品にはこんな強みがあります」

「競合と比べてここが優れています」

「使ってもらえれば、こんなメリットがあります」

と、自分の商品についてうまく説明することをイメージしやすいと思います。

私自身も、自分が良いと思っている商材だからこそ、その良さをどう伝えるかを考えてしまいます。

でも、これはどちらかというとプレゼンテーションのスキルです。

その前に、

「そもそも相手は何に困っているのか」

「何を求めているのか」

「本人もまだ言葉にできていない課題はないか」

を聞かなければ、本当に必要な提案はできません。

営業でもデザインでも、この部分はかなり似ていると感じています。

聞きたい答えを取りに行く質問をしない

ヒアリングで特に難しいと思っているのが、質問そのものが相手を誘導してしまうことです。

例えば、ある会社のデザインを考えていて、私が事前に

「この会社は優しさや爽やかさが強みなのではないか」

と感じていたとします。

そこで、

「御社の強みは、優しさや爽やかさですよね?」

と聞いてしまう。

すると相手も、

「そうですね。確かに優しさや爽やかさですね」

と答えるかもしれません。

でも、それが本当に相手が一番伝えたかったことなのかは分かりません。

私が欲しい答えを、質問によって引き出してしまっただけかもしれないからです。

だから私は、なるべく一歩下がって聞くことを意識しています。

例えば、

「どんな思いから事業を始めたんですか?」

「開業するまでには、どんな経緯があったんですか?」

「このデザインを見た人に、会社のどんな部分が伝わったらうれしいですか?」

といった聞き方です。

そうすると、こちらが想定していなかった話が出てくることがあります。

「実は最初からこの事業をやりたかったわけではなくて、あるご縁がきっかけだった」

という話かもしれません。

あるいは、

「華やかな会社に見せたいわけではなくて、真面目に仕事をしていることを伝えたい」

という話かもしれません。

こちらが「優しさ」「爽やかさ」を想定していたとしても、相手の口から「真面目さ」という言葉が出てきたら、一度その方向から考え直す。

私は、この柔軟性がヒアリングでは大切だと思っています。

景色を売ろうと思っていたWebサイトで、方向性が変わった

最近制作した、ある介護施設のWebサイトでも似た経験がありました。

実際に施設を見たとき、まず私の目に入ったのは周囲の景色でした。

開放感があり、

「この景色の良さをWebサイトで打ち出したらいいのではないか」

と最初は考えていました。

でも、ヒアリングをしていくと、施設側が本当に伝えたいことは少し違いました。

小規模な施設だからこそ、一人ひとりにしっかり目が届くこと。

スタッフの教育にも力を入れていて、安心して過ごしてもらえる施設であること。

そういった部分を大切にしていることが分かってきました。

Before:景色を打ち出した初期案

景色の良さを軸にした介護施設Webサイトの初期デザイン案

After:やさしさと安心感を打ち出した提案

ヒアリングをもとに安心感を軸に制作した介護施設Webサイト

そこで私は、「景色の良い施設」という方向だけで見せるのではなく、小規模だからこその安心感や、人にしっかり向き合う施設であることを伝える方向へ舵を切りました。

結果として、制作したWebサイトにもご満足いただくことができました。

私の第一印象だけでそのまま作っていたら、違うWebサイトになっていたと思います。

この経験は、自分の中でもヒアリングの大切さを改めて感じた出来事でした。

ヒアリングの後に、デザイナーとして提案する

もちろん、私はヒアリングした内容をそのままデザインにするだけではありません。

ある程度話を聞いた後は、

「この思いなら、こういう表現が合うのではないか」

「こちらの方向性も考えられそうです」

と、自分なりの提案をいくつか出します。

その中から一緒に考えて、納得できる方向を選んでもらう。

SunnySideDesignでは、そんな進め方を大切にしています。

対面でお会いできる場合は、話している内容だけではなく、実際にお会いしたときの印象から感じ取れるものもあります。

一方、テキストだけのやり取りでは、その部分が分かりにくいため、ヒアリングに時間がかかることもあります。

効率だけを考えれば、最初から選択肢を並べて、

「ナチュラルですか?」

「スタイリッシュですか?」

「高級感ですか?」

と聞いた方が早いかもしれません。

でも、それだけでは拾えないものもあると思っています。

ヒアリングは、デザインを始める前の作業ではない

ヒアリングは、デザイン制作に入る前に済ませる「準備作業」のようにも見えます。

でも私にとっては、すでにそこからデザインが始まっています。

相手の話を聞きながら、

「この人が本当に大切にしているものは何だろう」

「この言葉はデザインにどう落とし込めるだろう」

と考えているからです。

そして、自分が想定していた答えと違うものが出てきたときに、どれだけ柔軟に方向を変えられるか。

これは営業でもデザインでも、経験を重ねながら磨いていきたい部分です。

自分の答えを確認するために質問するのではなく、自分にはまだ見えていない答えを知るために質問する。

これからも、そんなヒアリングを大切にしながらデザインを作っていきたいと思っています。

参考資料